畳のヘリは、畳の長辺部分に取り付けられている布のことです。昔から「畳の上を歩く際にヘリを踏んではいけない」と言われていますが、それにはさまざまな理由があります。
この記事では、畳のヘリについて詳しく解説します。畳を敷く上で知っておきたいヘリの選び方や、踏んではいけないとされる理由についても紹介します。ぜひ参考にしてみてください。
畳のヘリとは

畳のヘリとは、畳の長辺側に付けられている布のことです。畳は以下の3つで構成されています。
畳の構造 |
説明 |
畳床(たたみどこ) |
畳の中心の土台となる箇所 |
畳表(たたみおもて) |
い草で覆われている畳の表面の箇所 |
畳縁(たたみべり) |
畳の縁を布で覆っている箇所 |
畳のヘリの役割
模様にも見える畳のヘリですが、畳表の角が痛むのを防いだり、畳と畳の間のすき間を埋めたりするといった役割があります。
畳は少しでも劣化を防ぐために、ヘリで畳裏の角を覆い痛まないように工夫がされています。また、畳を何枚も使用する場合、畳の間にすき間があると見栄えが悪くなりますが、ヘリを付けることで畳のつなぎ目もピッタリ合うようになります。このように畳のヘリは、畳自体を補強するための大切な役割を担うパーツです。
かつては格式を表していた畳のヘリ

現在では畳のヘリを自由に選べますが、昔の日本ではヘリの色や文様は身分を表すものでした。畳のヘリに隠された格式について紹介していきます。
繧繝縁(うんげんべり)
繧繝縁(うんげんべり)とは、もっとも格式の高いヘリです。実際に繧繝縁を使用できるのも「天皇」「三宮」「上皇」に限られていました。
繧繝縁は綿織と呼ばれる織り方で作られています。繧繝縁の特徴は、朱色や青、緑、紫などのカラフルな色が使われていることです。また、濃淡を生かして立体的な変化を見せているヘリもあります。繧繝縁に使われている模様も、ひし形や花菱といった伝統的な模様が用いられています。
繧繝縁は源氏物語絵巻にも登場しており、古くから愛用されていました。現代では、ひな祭りの際に飾るお雛様の台座でも繧繝縁を確認できます。
高麗縁(こうらいべり)
高麗縁(こうらいべり)も、格式の高いヘリとして使われています。昔の日本では「親王」「摂関」「大臣」といった上流階級の方が多く利用していました。
繧繝縁との違いは、繧繝縁がカラフルなヘリを使っているのに対し、高麗縁では白地に黒といったシンプルな色が使われていることです。伝統的な模様は使われず、菊の花や雲などの模様が一般的です。高麗縁には、大紋と小掌の2種類があります。
種類 |
使っていた身分 |
現在でも確認できる場所 |
大紋高麗縁 |
新王や摂関、大臣 |
神社仏閣の座敷や茶室 |
小掌高麗縁 |
公卿 |
現在はほぼ使われていない |
高麗縁を実際に見てみたい方は、神社仏閣や茶室を訪ねてみましょう。
紫縁(むらさきべり)・黄縁(きべり)
紫縁(むらさきべり)・黄縁(きべり)は、位階と呼ばれる階級制度で、特定の階級に許されたへりです。位階は聖徳太子が制定した冠位十二階に由来していて、この階級に基づいて紫縁と黄縁が分かれています。
ヘリの種類 |
階級 |
紫縁 |
殿上人のうち四・五位の階級の人 |
黄縁 |
六位以下の階級の人 |
縁なし
かつて階級を持っていない人は、畳のヘリを使えず「縁なし」として畳を使っていた時代もあったようです。しかし、現在では縁なしの畳が人気です。とくに洋室の一角に畳を置きたい場合は、縁なしのほうがすっきりとした印象で調和を取りやすいでしょう。
畳のヘリの色や文様と選び方

昔は、畳のヘリにも制限がありましたが、現在では色や文様も自由に選べます。ここからは、ヘリの色や模様選びについて解説します。合わせて畳のヘリの素材にも注目してみてください。
色の選び方
畳のヘリは、緑や黒などの落ち着いた色を思い浮かべる方も多いですが、現在ではカラフルな畳のヘリも販売されています。
畳のヘリの色を選ぶ際は、部屋の壁紙やふすまなどに合わせて選ぶと、違和感なく馴染むでしょう。たとえば、和室をやさしい雰囲気に仕上げたいなら淡い色がおすすめです。反対に凛とした雰囲気にしたいなら、濃い色を選ぶのがよいでしょう。畳のヘリには、定番の青や緑系から赤やピンクといった色まであるので、色の効果やイメージに合わせて活用してみてください。
色 |
効果 |
赤 |
高級な印象を与えるほか、気分を高揚させる |
黄色 |
健康的で明るい印象を与える |
緑 |
リラックス効果や疲労回復効果がある |
青 |
気分を落ち着かせる |
ピンク |
可愛らしい印象になり、女性らしさを感じさせる |
黒 |
高級感があり、気持ちが引き締まる |
茶 |
温もりを与え、緊張感が和らぐ |
白 |
スッキリとしたイメージで、清潔な印象を与える |
紋様の選び方
色と同様、現在の紋様には、さまざまなものが登場しています。伝統的な紋様をはじめ、花柄やキャラクターものも出ているため、部屋のイメージや家族構成によって選んでみるのがおすすめです。たとえば、畳表の色あせや、日焼け、シミなどを目立たせたくないなら、柄の入ったヘリを選んでみるのもいいでしょう。
現在の畳のヘリは、単色で単一の紋様が一般的です。ここで、ヘリの紋様でよく見かける代表的な柄とその意味を紹介します。
紋様の種類 |
柄の意味 |
ひし形 |
子孫繁栄、無病息災、魔除け |
亀甲(きっこう) |
長寿、健康 |
菊 |
不老不死、延命長寿、無病息災 |
麻の葉 |
魔除け、厄除け |
市松模様 |
子孫繁栄、事業拡大 |
鱗(うろこ) |
厄落とし、再生 |
鮫小紋(さめこもん) |
魔除け |
桜 |
繁栄、開運招福、五穀豊穣 |
松 |
長寿、不老不死、威厳 |
竹 |
不老不死、長寿、力強さ |
梅 |
学業成就、開運 |
素材の選び方
畳のヘリを選ぶ際は、素材にも注目してみましょう。畳のヘリは、もともと天然素材が使用されていました。とくに綿や麻は高級感の出るヘリとして現在も使用されています。
手ごろな価格で抑えたいなら、ポリエステルやポリプロピレンなどの化学繊維が使われているヘリを使いましょう。天然素材のヘリは、色や文様が多様化しており耐久性も向上しています。
畳のヘリに関する知っておきたいマナー

畳のヘリは、畳を補強するだけでなくマナーも存在します。ここで、畳のヘリに関するマナーについて確認しましょう。
かつては家紋の紋様が使われていた
江戸時代では、家紋入りのヘリが流行っていました。家紋入りのヘリは権威を表す象徴として大切にされていたため、畳のヘリを踏むことは相手を侮辱する行為として、やってはいけないマナーになっています。
武家作法「小笠原流礼法」は特別なルールがあった
畳のヘリを踏むことはご法度というマナーがあるものの、武家作法の「小笠原流礼法」には、畳のヘリを踏んではいけないというルールはありませんでした。
「小笠原流礼法」は、畳の歩き方を重視している作法です。畳のヘリを踏まないようにすると不自然な歩き方になるため、ヘリに関するルールは設けていなかったようです。
畳のヘリを踏んではいけない理由
畳のヘリを踏まないようにする風習は、家紋入りのヘリが誕生する前からあったと言われています。日本では畳のヘリを踏む行為は、敷居を踏むと同様のマナーとして浸透しています。どんな理由があって畳のヘリを踏んではいけないのか、その理由を4つ紹介します。
畳が傷んでしまうため
もともと天然素材でできていた畳は、毎日使うことで劣化しやすくなります。また、畳のヘリは植物染めの手法が取り入れられていた関係で、色落ちしやすく傷みやすいという特徴がありました。畳のヘリが傷んでしまうと、畳そのものの痛みも進行し張替えが必要になります。そういった理由から、畳のヘリは踏まないよう暗黙のマナーが決められました。
上座と下座をわけるため
日本では昔から、上座と下座を重んじるマナーがあります。畳のヘリは、上座と下座を分ける境界線として認識されていました。
たとえば和室では、奥が上座で出入口に近い場所が下座というルールになっています。上座と下座の境界線である畳のヘリを踏むことは、上座にいる人への非礼行為とみなされていました。このマナーが現代社会でも続いているため、畳のヘリを踏んではいけないという認識があります。
また、かつて家紋入りのヘリは武家屋敷で広く用いられていました。ヘリを踏む行為は、その家に対しての侮辱とみなされていたため、畳のヘリを踏まないことが一般的な礼儀として浸透しています。
つまずかないようにするため
畳は長く使っていると、段差ができてヘリが浮き上がったり凹凸したりします。この少しの段差によって、つまずく可能性があります。あらかじめリスクを回避するために、畳のヘリを踏まないよう歩いていました。
畳のヘリが合っていないと転倒の原因にもなります。また、お茶や食事を運ぶ際も、ヘリにつまずいてこぼれる可能性があるので、現代でも畳を歩く際は注意が必要です。
攻撃から身を守るため
武家作法において、敵に襲われたときにすぐ対処できるよう作法が決められていました。そのひとつが、畳のヘリを踏まないということです。
鎌倉時代から江戸時代までの武家政権下では、畳の間から槍や刀で挿され、床下から攻撃されることが多々ありました。畳のヘリを踏むと、畳のすき間から身を守れない可能性があります。そのため、身を守るため畳のヘリを踏まないようにしていました。
また、畳のヘリを踏むことで畳のきしむ音や床下にいる敵陣に知られる可能性もあります。畳のヘリは、戦の最中は危険な箇所とされていたようです。
まとめ
畳のヘリは、畳の補強だけではなく、さまざまな役割があります。武家社会では、畳のヘリによって格式が分けられていたほど大切なものでした。現代では自由に畳のヘリを選べるため、お好きな色や模様を組み合わせる楽しみがあります。畳のヘリによってお部屋の雰囲気も変えられるため、畳の張替えや和室のリフォームの際は、ヘリに注目してみてもいいでしょう。
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